夏を旨とする住まい

住宅,建築史

徒然草の有名な一節“家のつくりやう(よう)は夏をむねとすべし”は、学生の頃から建築家・小説家の書いた文章でよく目にしていましたが、実際に住宅を設計する立場になると簡単には成り立たない話だと気づきます。四季のある日本では夏の暑さ対策と冬の寒さ対策どちらも必要ですが、より重視されるべきなのは、命を落とす危険性がより高い冬の寒さ対策だからです。少なくとも昭和の時代であればそれが常識だったと思います。

話は突然変わりますが、子供の頃に習った竪穴式住居の竪穴もずっと謎でした。水捌けが悪く湿気も溜まりそうなのに何故わざわざ竪穴を掘るのだろうと。ずいぶん後になってから知った答えは、冬の寒さを凌ぐために凍結深度以下まで地面を掘り下げたからというもので、やはり日本の住まいづくりは冬の寒さ対策が基本だったのだと改めて感じたものです。

もちろん四季を通じて快適な住環境を得ることが理想であり、昭和の時代と比べると格段に進化し低廉化した設備機器や建物の高断熱化などによって室内環境をコントロールすることは随分と容易になりました。局所暖房しかなかった昔と違い、現在であれば空間をひと繋がりにして回遊性を高めたプランも可能です。冬の寒さ対策は実現されてきたと言ってもよいでしょう。

では、寒さ対策を施したうえで夏を旨とする住まいは可能でしょうか。涼しい室内が確保できればよいと思う人にとっては可能、緑陰越しの風などをイメージする人にとってはかなり困難というところでしょうか。兼好法師の頃であれば問題にはならなかったでしょうが、現在、理想とする住空間を屋外空間とセットで考えると隣家との距離や緑を確保するための敷地が必要で、それを確保するための困難さを考えると夏を旨とする住まいは遠ざかるばかりです。

実際、新築住宅の多くはデザインの質においてインテリアとエクステリアのギャップが甚だしく、屋外環境に意識を向けられることは特別に恵まれたことのようにさえ思います。新興住宅地や地価の高いエリアであればまだ理解もできるのですが、自然環境に恵まれた農村景観の中にも家の外部には関心がなさそうな、多分インテリアは美しい省エネ住宅が増えています。

Posted by nos